なんの役にも立たない研究

当社の古川工場のある岐阜県飛騨市の東京大学宇宙線研究所は「ニュートリノ」の発見、研究で世界のトップを走っています。
素粒子のニュートリノ研究で2002年に小柴昌俊博士、2015年には梶田隆章博士がノーベル物理学賞の対象となった宇宙の果ての情報を届けてくれる素粒子ニュートリノを観測しています。
「何の役にも立たない研究」と今はいわれますが、100年後には様々の宇宙の謎が明かされる研究なのです。この宇宙から来る素粒子が人間の体を突き抜ける時には全く何の影響も与えませんし、太陽の核ではたくさんのニュートリノが生まれ出ている謎も解明されていません。しかし“役に立たない”といわれても“人類の知の地平線を拡げる”ことだけは確かです。こうした科学の研究こそ「日進月歩」の時間なのです。
創業50年も当社にとっての一里塚です。

研究開発の “宝探し”

IotやAIの急速な進化とともに科学技術の世界は従来の研究者に加え新しい異分野の人材が求められています。

夏には「扇風機」が身近な家電で、ネーミング通り羽で起こす風が商品でしたが、ダイソン社の羽のない扇風機が登場してイメージが一新しましたし、掃除機もお掃除ロボが登場して“掃除は自分でしない”作業に変身しました。研究開発の世界にデザイナーが参加して技術の将来像を形にしてみせるプロトタイプの製作者が新たな価値創造を生み出しています。また、シオカラトンボの背中にある紫外線を反射させる成分から油に近いワックスのようなものを発見し“日焼け止め”を研究したり、蚊の嗅覚器からセンサーを開発し、人の汗のにおいから感情を読み取りと幅広い研究が進められています。研究開発に異分野の研究者とタッグして“宝探し”をするトレジャーハンティング人材が参加しています。創業50周年、次のアフターコロナに挑戦します。

「アフターコロナ」の新時代に向けて

“戦う天使”と呼ばれた看護婦(師)ナイチンゲール生誕200年の今年、コロナ戦争で世界の医療従事者に感謝の輪が広がっています。
ナイチンゲールはクリミア戦争に看護師団のリーダーとして活躍しましたが、兵士の多くが戦闘ではなく感染症で命を落としたことを統計で示したり、今のナースコールを発案したりしていますが、不思議な縁を感じます。コロナ感染は終息とはいきませんが、今世界は“アフターコロナ”の新しい秩序に向けて動き始めています。医療技術や先端医科学、デジタルシフト社会の在り方、経済やビジネスの仕組み、新しいソーシャルシフトの変化に合わせた体制づくりが求められています。当社も創業50年の技術を活かし次の新しい時代の発展に向かって挑戦してまいります。医療、介護支援分野を含め社会の変化へ対応した“コト価値づくり”の技術革新を目指してまいります。羽田、蒲田という地域文化を大切にした歩みを進めます。

危機を乗り越える“日進月歩”の精神で

当社はこの5月で創業50周年を迎えますが、この区切りの年にリーマンショック以上の世界的なパンデミックに遭遇したことに緊張を感じます。感染症という新たな危機を乗り越えた後の世界経済は大きな変化と新しい常識が必要となることは間違いありません。
当社のビルに創業者が試作した小さな音の静かな風力発電機が飾られています。次世代の再生可能エネルギーの主力電源となる風力発電ですが、いま洋上風力発電として動き出しています。一つは秋田県沿岸で国内最大の計画で、もう一つは富山県の小さな入善町の湾内で日本海から吹き寄せる風を活用した日本初の民間出資の洋上風力発電計画です。沖合800m、推進15mに風車を4基、出力7.500キロワットですが、地域の海洋資源、観光資源として住民の期待が広がっているそうです。
私たちも地域のまちと一緒になって再生可能エネルギーに挑戦するような大きな夢に向かって次の50年に歩みを進めてまいります。

デジタルシフト社会の技術連携

新型コロナウイルスの拡散で緊急時の対応としてデジタルシフト社会の整備が急がれていますが、AIやIoTを活用した領域でもコンソーシアムの流れが加速しています。
視覚障害のある人が一人で自由に街を歩けるようにしようと“移動支援ロボット”を共同開発しようと研究が進められています。
IBMがAI技術を担当しオムロンが画像認識センサー技術、アルプスアルパインが触覚技術、清水建設が測位ナビゲーション技術、三菱自動車が自動車の技術を5社で提供し、3年間で実用化に向けスタートしました。
従来の杖に換わりキャリーバッグ型のケースに様々なセンサーや知能を搭載し安全に移動できる案内ロボットを目指しています。
今やビジネスの出張や旅に欠かせないキャリーバッグですが同様に目の不自由な人の移動支援ロボとして誕生します。企業の得意技術と連携したコンソーシアム型技術開発がデジタルシフト社会の一翼を担うでしょう。

シマウマのローテク縞模様に学ぶ

“シマウマの縞は何のためにあるのか”そんな論争が長年続いていましたが、英国ブリストル大学の研究チームが結論を発表しました。「シマウマの縞模様は、虫に刺されなくする目くらましの役割をしているのではないか」という結論です。日本では古くから草木染の衣服には蚊や虫に刺されないと言われていますが、シマウマは進化の過程で生み出したワザなのでしょうか。
研究室の実験は、普通の馬たちに黒、白、縞模様の3種類のコートを着せアブの動きを観察した結果、縞模様の馬にはアブの止まる回数が圧倒的に少なかったのだそうです。
シマウマや牛、馬たちに病気を運ぶ虫たちの“目くらまし”の模様だとは、なんともローテクなワザに思えるのですが、科学技術の発展にもこうしたローテクな技術も大切なのではと思うニュースでした。“弱いロボット”の開発も(30年1月号)、シマウマの縞模様に学ぶ視点ではないでしょうか。

踏み出す勇気の“科学技術”

私たちの技術開発には「少しの変化」が社会の「大きな変化」につながるという視点があります。IoT(モノのインターネット接続)、AI(人工知能)が科学技術の進展に飛躍的な役割を担っています。高齢化が進むなか、歩けない高齢者や障がい者に車いすが欠かせませんが、一方で500メートルを超えて歩くことが困難な65歳以上のお年寄りが1千万人以上いるとされ、家にこもりがちな方々を外に出し生活の前向きな参加を支援する「生活電動車椅子」の開発が進んでいます。羽田空港でこの車いすの実証実験が行われ、利用者が下りた後、自動運転技術を搭載した車いすが勝手に所定の位置に戻る技術が大変話題になりました。
これまでのバリアフリーは“マイナスからゼロ”に近づける発想でしたが、これからは“ゼロからプラス”に持っていく技術が求められる時代です。
新たな科学技術との共生社会へ“踏み出す勇気”を培ってまいります。

農業に進出するロボットたち

日本の農業人口が昭和25年をピークに減少しています。平成12年389万人でしたが、平成30年では175万人と半減しています。農業は休みのない重労働で後継者も減り人手不足に加えて高齢化が進み、機械化も遅れ農業を取り巻く環境が厳しいのが現実です。こうしたきつい労働を救うために「自動野菜収穫ロボット」が話題です。身をかがめながらの仕事が多い農作業は足腰に負担がかかりますが、全長1mほどのコンパクトなロボットで自走しながら収穫適期の野菜を見極め、成長が一律でない野菜を選別して繊細な動きで摘み取りカゴに入れるという優れもので、AI(人工知能)を搭載したロボットです。
IoT商品はともすると高価になりますが、必要な物に必要な時間だけ借りるリース制度で運用され、農家にとっては有難いサービス制度です。IoT化はこうした社会的に価値のあるシステムで定着していくよう努力してまいる所存です。

高齢社会を支援する生活ロボット

生活支援ロボットのコンテストが2020年9月に茨城県つくば市で開催されます。
一人暮らしの家を想定した住宅などで、例えば半身不随の人が車いすを使わずにロボットを操って健常者と変わらぬ生活が出来るよう技術を競うコンテストです。
コンテストには10の課題が設定してあり、下肢まひと人がロボットを使ってベットからトイレに移動し、用を足してベットに戻ったり、入浴の準備や入浴、身支度、食事や洗濯、掃除、荷物の受け取りや買物、バスの乗り降りなどの課題をロボットを使って操作するというコンテストです。高齢社会を迎え障がい者や高齢者にとっても嬉しい挑戦です。
ドラえもんのタケコプターがドローンの登場で空想から実現したように、生活支援ロボットの事業化に多くの民間企業が最新の科学技術で挑戦して欲しいものです。
産業ロボットに取り組む我が社にとっても新時代の課題であることも間違いありません。

更なる進歩に向けて

2020年、東京オリンピック開催の年、当社は創業50周年を迎えます。中小企業集団の聖地蒲田に根ざし支えられて半世紀の歴史を刻むことが出来たのもお客さま、お取引先、地域の皆さま、社員、家族の支えがあってのことと感謝いたしております。
今、50年の歩みを振り返りながら、様々の研究や技術開発の積み重ねとともに次の新たな時代に向けて“日進月歩”を続けてまいります。AIやIoTの技術革新が進むなか皆様の期待に応えられる体制を整え、当社の強みを伸ばし更に幅広い技術開発を目指して次の一歩を踏み出します。地球温暖化が原因とされる自然災害が多発する時代、暮らしの安全安心に科学技術がどう寄与できるか、環境にどう配慮できるか等も念頭に、当社の“出来ること”に挑戦してまいります。
50年史の編纂を進めながら社員一同、次世代への未来社史づくりにも取り組んでいます。