夢とロマンが支える科学技術

少年の頃、ジュール・ヴェルヌの「八十日間世界一周」や「海底二万里」「月世界旅行」などの冒険科学小説に胸踊らせたものです。
1956年に「八十日間世界一周」が映画化され、鉄道や船、気球を乗り継いで80日で世界一周できるかとハラハラしながら見ました。
1900年ドイツのツェッペリンが全長128mの巨大な飛行船を開発し、アルミの骨組みを覆った袋に水素ガスを詰めて浮力を得、ガソリンエンジンでまわるプロペラで推進力を得、ドイツ国内を定期便が就航していましたが、1903年にはライト兄弟が製造した飛行機に追い上げられるようになりましたが航続距離と輸送力では飛行船のほうが勝っていました。しかし、1937年5月6日飛行船ヒンデンブルグ号がアメリカで着陸する際、爆発、炎上する惨事で飛行船の時代が終わりを告げ飛行機が主役になりました。今では地球一周も、月旅行も海底二万里も日常ですが科学の発展は夢とロマンがあって支えられているのですね。

「スマートロボット」の働く時代へ。

日本の総人口は2008年をピークに減少に転じ生産人口も1991年から減少し始め、予測を超えて人口減少が加速しています。
内閣府の予測では2030年の総人口1億1662万人が2060年には8674万人まで減少するとみています。
企業にとって生産人口の減少は究極の課題でその対策が始まっています。定年の延長や再雇用と手は打っても追いつかないのが現状です。
人口減少の一方で高齢化が進み、医療や介護の業界でも自動化や人手に変わる配膳や清掃ロボットの対応が進んでいます。
鉄道や交通機関の無人運転や無人化、金融機関の窓口業務の無人化と加速します。
労働人口が減る中で「スマートロボット」が経済の復活の鍵になる時代となっています。
精密機器の開発を担う我社にとって新しい時代のニーズに対応する研究開発を目指して6次産業化への道を歩んでいます。

「ウロボロスの蛇」を目指して

「日進月歩」はギリシャ神話の蛇が自分の尻尾を飲み込む「ウロボロスの蛇」から始まりましたが科学技術は広大な宇宙のマクロの世界から極小のミクロの世界を結ぶウロボロスの蛇と同じ理念の領域なのです。
小惑星探査機「はやぶさ2」は、小惑星リュウグウで宇宙や生命の起源を探査して帰還し、神岡宇宙粒子研究所スーパーカミオカンデでは宇宙から届く素粒子ニュートリノの謎を解きます。科学技術の世界は、1027(乗)メートルから10-25(乗)メートルの気の遠くなる広大な世界に挑戦しているのです。
ノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎さんの研究が毎日テレビで見る気候モデルの礎築とし身近な生活情報として活用されているように、科学技術のIT化やAI化と共に更に発展する時代が加速しています。
“作れない物はない”を使命に、わが社もウイズコロナの新しい次の半世紀に向けて“ウロボロスの蛇”に挑戦します。

持続可能な社会への参画。

新しい年を迎えウイズコロナが具体的に動き出す時代が始まります。傷ついた世界経済は「SDGs(持続可能な開発目標)」を基準とした循環型社会を目指して再生です。
人口増加と地球環境への負荷の増大でどう経済のバランスを保つかという難しい課題のなか個々の企業の“あるべき姿”を明確にし推進することが大切です。
「信用・信義・信憑」の三つの信を企業理念とし「どんな機械でも作れないものはない」を合言葉に、我社の総力を結集した科学技術の力で循環社会に参加いたします。
人に危険な仕事や退屈な作業をロボットで代替するように、省エネ、小型化、精密化を基盤に現場の労働環境にも配慮し“人が中心”となって持続可能な社会に挑戦します。
山・川・魚・土・海がつながっているように単に製品を作るのではなく“社会に役立つ”をモットーに作り手、売り手、買い手の“三方よし”の精神で貢献してまいります。

100人の「一歩一会」で!

“野に雑草という名の草がないように、工場には雑用という名の仕事はない”―と大田区生まれのノンフィクション作家・小関智弘さんが「どっこい大田の工匠たち」で書いています。大田周辺の町工場の旋盤工として働いた作者は、自らの体験を書いた多くの著書を出版していますが“手で考えることを忘れては良い知恵は生まれない”とものづくりに生きる職人の心を書いています。
蒲田の職人力には“1人の100歩より、100人の1歩”というトヨタと同じ一人ひとりの粘りとチーム力で作る総合力があります。
我社の次の半世紀、コロナ禍という変革の年のスタートとなりましたが、新しい時代の成長に向けて“100人の1歩”で科学技術の発展に粘りと仲間とのチーム力で挑戦してまいります。100人の “一歩一会”で「どんな機械でも、作れないものはない」の創業の精神を合言葉に新しい科学技術の分野へ道を拓いてまいります。

身近に感じたノーベル物理学賞

2021年度のノーベル物理学賞に米国プリンスン大上級研究員の真鍋淑郎さんが、温暖化の予測法の研究で受賞されました。
毎日、テレビの気象予報で見る予報図の基となる研究ですから生活に欠かせない情報です。
地球温暖化は自然現象だけの結果ではなく、人間のいとなみが大きく影響しています。二酸化炭素などの温室効果ガスが地球の気温を上げていることを理論的に証明する研究で、世界の陸や海を何十万個ものマス目に区切りそれぞれに気温や気圧などの数値を与え変化をスパコンで計算して予測します。
テレビで見る予報図ではなく、その基はほとんど難しい数式ですから、やはり物理学なんですね。ノーベル賞が未来研究への貢献もありますがすでに日常生活に欠かせない医療や正確な気象予報や経済、文化の発展など身近に感じられるのも嬉しいです。
我社の技術開発も未来に目を向けながら粘り強く社会のお役立ちを目指します。

アフターコロナの新しい蒲田の希望

中小企業の街・蒲田は昭和58年がピークで、9,200社程でしたが平成28年には4,200社と半減し今も減り続けています。経営者や専門技術者の高齢化や事業継承者の不足が原因です。1人から9人規模の会社が90%を占める企業特性も少子高齢社会で難しい経営環境となっています。それでも、職住一体、共同作業や専門技術の集積地としての歴史は大きな遺産で世界の窓口になる羽田は市場や技術のグローバル化に向けて立地を活かした新しい産業の発信が始まっています。
ITやAIを活かした産業は蒲田の企業風土を生かせる場として若い世代の参入により変化しています。働き方改革やモノからコトへの価値観の変化によりアフターコロナの時代を先取りした産業振興も進んでいます。
我社も次の半世紀に向けて“成長とは変化”とコト価値づくりに挑戦してまいります。作家、村上龍は「この国は何でもある。だが希望だけがない」と。“希望”を持って進みます。

ロボットの道草

精密機器にAI(人工知能)が組み込まれ限りなくロボットが発達していますが、ロボットの語源はチェコ語のロボタ(強制労働)だそうですから意味深長ですね。
今、世界で「ヒト型ロボット」が開発され、手塚治虫のマンガ「鉄腕アトム」の夢の世界を彷彿させてくれます。
身長173cm、体重57kgと言われる“?”と思いながら「ヒト型ロボット」を受け入れます。人間そっくりのロボットの開発は、人に変わって危険な作業や退屈な仕事をさせるそうです。すでに洗濯機や掃除ロボットは活躍していますが家事の手伝いや買物をしたりするのだそうですから“アトム”の時代です。
大手電気自動車メーカーや宇宙ロケット開発メーカーが手がけているそうですから最先端の技術を活用しての開発は“科学の道草”のように思えますが寄り道は技術を深くする科学に大切な日進月歩なのではないでしょうか。

科学と文学の間

1989年、アメリカの物理学者ハンス・デーメルトは「イオントラップ法」の開発でノーベル物理学賞を受賞しています。
電子は最初に発見された素粒子でそれ以上分割できない究極の単位と考えられている基本粒子で質量分析法や基礎物理研究、量子状態の制御など様々な科学的観測に用いられています。そうした電子を調べる上で画期的な業績を残しています。
デーメルトがノーベル賞講演で最後に語った一節は、イギリスの詩人、ウィリアム・ブレイクの詩「無垢の予兆」から“一粒の砂の中に世界を見る”を引用して“一個の電子に世界を見る”と締め括っています。
詩人、石川啄木の「一握の砂」は、無限の時間の内に刹那にも等しい時間を生きる人間を描いていて心に通じるものがあるように思います。科学の世界にも常に人の心に通じる原点があることを教えてくれます。

宇宙創生の日進月歩を観る

当社創業者、渡辺は岐阜県飛騨市出身ですが、飛騨市には奈良時代から採掘されてきた東洋一の広大な鉱山跡地を活用した東京大学宇宙線研究所があり、当社の飛騨工場もあります。
この鉱山跡地を活用して1,980年代から小柴昌俊博士が陽子崩壊の観測を始め初代カミオカンデが誕生し、1996年代から2代目スーパーカミオカンデでニュートリノの観測施設としてスタートし、2002年には小柴博士がノーベル物理学賞を受賞し2015年には梶田隆章博士が小柴博士に続いてニュートリノ素粒子の研究でノーベル物理学賞を受賞されました。
そして現在、3代目のハイパーカミオカンデが昨年着工し2027年の完成を目指しています。宇宙から飛来する素粒子ニュートリノが地下深い水槽を通り抜ける際に放つ微弱な光を捉え宇宙の成り立ちの解明を目指す研究を世界19カ国約450人からなる研究グループによって始まっています。科学の日進月歩を身近に感じながら我社も新しい時代に挑戦です。