1956年にジョン・マッカーシー(計算機科学)の提唱から人工知能・AI(Artificial Intelligence)の研究が始まりました。SF映画に登場した人工知能は、1984年からスタートした「ターミネーター」や「マトリックス」などを思い出します。 1999年にソニーが家庭用犬型ロボットAIBOを発売し、感情を表現したり人との対話をする機能を持ちロボットを生活の中に取り込みましたが、 AIBOも“新たな科学技術分野の創造に寄与した”とされ、未来技術遺産に登録され過去の技術となっています。
人工知能の進化はめざましく、AIが将棋のプロ棋士を負かしたり、2021年度までに東大入試突破を目指したり、俳句や和歌を作ったり小説づくり までと研究が進んでいます。
AIは記憶や学習といった人間の知的活動をコンピュータに肩代わりさせることを目的とした研究や技術ですが、工場の自動化にも欠かせない分野であり生産人口減をカバーしたり、新しい価値創造に貢献することでしょう。
「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」の世界を実現
1989年公開 の米SF映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」は、30年後の未来2015年10月21日にタイムスリップする物語です。
このSF映画に描かれた未来がどこまで実現したかを「タイム誌」が検証しています。
車型タイムマシン「デロリアン」は、ごみを燃料に走りましたがトヨタ自動車が次世代エコカーの燃料電池車(FCV)「ミライ」を売り出し、未来をアピールしました。映画で登場したテレビ電話や指紋認証システム、手を使わないゲームや目にかけて見る映像端末はウエアラブル端末で実現し、犬の散歩に利用された小型無人機はドローン、宙に浮く「ホバーボード」や足に自動的にフィットし動力を持つ靴も「足に自動フイット」するスニーカーとして 限定ながら作られ、登場した未来技術のほとんどが実現しています。SF物語が単なる夢物語ではなく、技術の目標であり進歩の支えだと思うと私たち技術家もたくさんの夢を語りあいたいと思っています。
「宙(そら)と地」の二人のノーベル賞
わが社の工場がある飛騨市のスーパーカミオカンデから小柴昌俊先生に続いて同じ
「ニュートリノの研究」で、ノーベル物理賞を梶田隆章先生が受賞され、師弟で
ノーベル賞受賞は初めての快挙です。前日には医学生理学賞を大村智先生が受賞され、
日本中に勇気と感動を2日続きで与えてもらいました。
以前このコラムで「ウロボロスの蛇」の話しましたが、梶田先生は素粒子で宇宙誕生の謎解きを
研究され、大村先生は地中の微生物から抗寄生虫薬イベルメクチンの開発をされ3億人以上の
人々を救った研究です。宇宙の起源も顕微鏡で見る自然界の微粒子の世界も同じだと説く古代
ギリシャ人の哲学を日本の二人の研究者が同時に受賞されたことに不思議な縁を感じます。
梶田先生の「私たちの研究は、すぐ何かに役に立つというものではありませんが、宇宙の
謎解きに若い人もぜひ参加してもらいたい」と言葉を寄せられました。私たちも
改めて基礎研究の大切さを感じています。おめでとうございます。
「宇宙エレベーター」への挑戦
戦後70年、さまざまな戦争史が語られていますが、史上最大の戦艦大和には世界で初めてのエレベーターがあったそうです。SF作家アーサー・C・クラークが構想したのは「宇宙エレベーター」です。そのSFの世界がカナダの企業によって、地上20kmの宇宙エレベーターの実現に向けて動き出しました。
世界で一番高いビルはドバイの「ブルジュ・ハリフア」で828.9mですからその20倍以上の高さで成層圏に十分至達する距離です。宇宙エレベーターのメリットは、この屋上に飛行場があり多段式ロケットを必要としないことで、給油や再飛行ができ燃料費を30%節約でき人工衛星の機能も肩代わりすることができることです。考案したカナダのThoth Technology社では、構造体を支える材料はダイヤモンド・ナノファラメントを提案していますが、強風を耐える能力が必要で揺れをどう支えるかが問題だとしています。費用は不明ですが、壮大な技術への挑戦ですね。
ロボットにも法律?
私たちの会社は精密機器のオーダーにも応える産業ロボット分野でも活動していますが、ロボットの社会的普及と変革・恩恵には素晴らしい発展があります。自動洗浄機に始まり、お掃除ロボ、介護ロボや災害ロボコンと進化し、いよいよ自動車も名前通り自動運動へと急速に進化しそうですが、人との共存に向けて法律の在り方が議論され「ロボット法学会」が設立されます。その理由は、自動運転の車が事故を起こしたら責任を取るのはメーカー?、乗っている人?。介護ロボが人にケガや骨折をさせたら誰の責任?。もしも、人工知能ロボが故障で危害を及ぼしたら――――と数々の法的問題が生じます。新たな法解釈や立法が必要で開発する私たちもあらかじめルールを作り、そのリスクが予測できれば開発にも力が入り責任も明確になります。
無人飛行体ドローンが急速に広がるなか、新しい秩序が必要なのと同じですね。
どないかします
鷲田清一さんが執筆される「折々のことば」(朝日新聞)に、東大阪の工場主の言葉として「どないかします」が紹介されました。
「町工場のまち、東大阪でよく聞かれることば。部品のみならず、遊びのコマから人工衛星までつくってきた。どう考えても無理、採算も合わん、けどこの人の必死の思いをかなえてやりたい…と、この一言でどんな難しい注文も請け負う。(略)」-とても愛情にあふれた文章が綴られています。
町工場の蒲田も同じ思いで、求められる技術や仕事に対する姿勢は西も東もないと感じました。関西では「どないかします」、関東では「なんとかします」となりますが、なぜか言葉の持つ響きの違いに驚きます。鷲田さんは「人の求めに応える喜びと、無理に挑む楽しさとがあってはじめて口にできるせりふだろう」と書かれています。「どないか」と「なんとか」、二つの言葉の響きと温もりの違いを感じるのは私だけでしょうか。
108歳の回転木馬(メリーゴーランド)に感動
日本の産業革命遺産の勧告が世界のニュースになっていますが、日本機械学会が2007年から認定を始めた「機械遺産」をご存知ですか。毎年8月7日の「機械の日」に発表されますが、もう70件以上の機械遺産が認定されています。そのなかに「としまえん」(練馬区)の回転木馬「カルーセル エルドラド」、1907年にドイツ人技師ヒューゴ・ハッセ製作の回転木馬が現役で動いています。木造で24頭の馬と6頭の豚が走るアールヌーボー調の木馬です。米国の遊園地が閉鎖され、としまえんが輸入し2年かけて改修し71年に息を吹き返したハッセの最高傑作として高い評価を得て、2010年芸術作品と機械技術が融合した見事な作品として機械遺産に認定されました。
メリーゴーランドは遊園地の花形として、いまも子どもたちに夢とロマンを与えていますが技術屋としては108年もまわり続けてる回転木馬に嬉しさと誇りを感じます。
夢、開く日本の産業革命遺産の勧告
明治日本の産業革命遺産として国内23資産がイコモス(国際記念物遺跡会議)から世界文化遺産「登録」を勧告されました。
正式決定は7月頃、21ヵ国の委員国がドイツのボンで開かれる会議で決定されるそうです が、その基準は“遺産の価値の証明ができるか、遺産を守る体制が整っているか”などが判断されて、正式決定となります。
幕末から明治の近代化産業史に残る150年から200年も前の産業遺産で、長い鎖国政策から西洋の技術を学び明治維新後に日本に急速な勢いで近代化を築いた志を今に継ぎ、モノ作りニッポンの原点が評価されるのです。
世界から評価される蒲田のまち工場群も、これから100年、200年後には世界の技術を支える日本の匠集団のまちとして評価される のではないでしょうか。
わが社も小さな精密機械の匠工場ですが、日本の技術の「底力」とその志を後世につなぎ続けていく所存です。
未来のエジソン育成に期待!
日本の学校教育は、オールマイティーで協調性のある人間を育てるには適しているという指摘がありますが、いま教育の形を見直そうという動きがあります。
なかでも、東大先端科学技術研究センターが中心になって進める「異才発掘プロジェクト」は、小中学生を対象に才能があるのに学校教育になじめなくコミュニケーションが苦手だったり、興味が先走ったりするエジソンのような子どもの突出した才能を世界のトップランナーに育てようという教育の場づくりが始まっています。日本の大学教育は東大を頂点にしたシングルピーク構造ですが、これをアカデミックスクールと職業教育を重点にしたプロフェッショナルスクールの2つのツインピークス構造にし、ローカル経済圏で活躍できるレベルの高い専門知識・技術をもった人材育成をしようという動きもあります。私たちの企業のように技術で支える現場にとっては、未来の若きエジソンたちに期待です。
「都市鉱山」と「人口鉱床」
ミステリアスな名称ですが「都市鉱山」の名付け親は東北大学の南条道夫教授で、「工業製品を再生可能な資源とみなし、蓄積された場所を都市鉱山と名付けた」と88年に論文で発表したのが最初だそうです。
携帯電話やパソコンに使われる希少金属(レアメタル)が再利用の対象で、インジウムやパラジウム、コバルトや金、銀、錫、アンチモンなどの金属が回収されています。日本国内にあるインジウムの量は、世界の天然鉱山にある埋蔵量の6割あり、世界の消費量と比べると3.8年分に当ると推測されています。また携帯電話1台に使われる金の量は6.8mgで、鉱石より含有率が高く、その埋蔵量は6,800tで、時価22兆円相当に上るそうですからお宝鉱床です。こうした有用金属を含む製品の廃棄物や製造中にでる廃物の再利用回収システムを作る「人口鉱床」計画も進められており、私たちも希少金属資源のリサイクルには細心の注意を払っています。
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