科学と技術の協働

米デュークス大学教授ヘンリー・ペトロスキー著「エンジニアリングの真髄」(安原和貝訳・筑摩書房刊)を東京大学教授・佐倉統先生が書評を書かれていました。「科学は、自然の謎を解明する”知る”活動だ。対する技術(エンジアリング)は、何らかの問題を解決する営み。そのための便利な道具や解法を”作る”ことである。環境問題やエネルギー問題など、現代の難問を打破するためには、しばしば”科学的方法”が重要とされるが、大事なのは現実解を見つけるエンジニアリング的発想と方法である」と、科学と技術の違いについて紹介されています。

科学が上位で技術は格下と思われてばかりとか、基礎研究から応用研究と直線的に進むものではないとも論じています。本書の副題は”なぜ科学だけでは地球規模の危機を解決できないのか”とあるように、私たちの小さな商品開発も常に科学を技術で裏打ちし、技術を科学で実証する作業の連続で、示唆に富んだ指摘だと思っています。

暮らしを支える”ロボット”

「ロボット」の言葉の響きに心が躍ります。

私たちが作る精密機械も実は「ロボット」です。サイボーグやアンドロイドと呼ばれる人型ロボットではなく、工学上の定義で「目標・目的を与えた際、自動で与えられた目標・目的を実践する機械」と呼ばれるものです。路上にある「自動販売機」も工学上、ロボットです。

このロボットの名称は、現チェコの作家カレル・チャペットが1921年に発表した戯曲で使ったのが最初で「強制労働者」という意味のチェコ語ロボット(robotd)に由来する造語だそうですから、微妙ですね。

宇宙ステーションから若田船長がロボットと会話する映像が世界に配信されましたが、今ロボット産業が世界で注目されています。神奈川でも「さがみロボット産業特区」が設定され、暮らしを支えるロボット開発が推進されています。手足のリハビリや介護、家事や会話、放射線量無人測定とロボット産業は無限に広がっています。蒲田テクノロジーもロボット産業を支える一員です。

子どもの頃の遊びから生まれる科学技術の芽

世界で通用する科学者・技術者を目指す高校生の「科学技術チャレンジコンテスト」が開かれ
富山市立高岡高の林靖人さんが『ダンゴムシ』の研究で文部科学大臣賞を受賞しました。

子どもの頃よく遊んだ、すぐに丸くなるあのダンゴムシが
障害物にぶつかると左右交互に曲がるこれまでの「交替性転向反応」という定説に疑問を持ち、
観察・研究を続けた結果、障害物に接触した触角と逆向きに曲がることを発見しました。
林さんは、「分からないことを分からないままにしておきたくないから」と語り
夢は生物学者だそうです。

京都市立深川高の三宅浩一郎さんは『泥団子』の研究で朝日新聞社賞を受賞しています。
なぜ泥団子が球形を維持できるのか。泥の粒子の大きさや水分量から、最も硬い泥団子をつくる条件を調べています。
その研究応用は土砂崩れを防ぐことに役立つかもしれません。

科学技術の進歩は、小さなヒラメキや興味や粘りから生まれる”日進月歩”の力なのですね。

小惑星探査機「はやぶさ」のミッションに学ぶ

日本の小惑星探査機「はやぶさ」は、小惑星イトカワに2006年11月着陸してサンプルを採取し、総飛行距離60億kmの旅を終え、2010年6月13日地球に戻って来ました。幾多のトラブルに巻き込まれながら7年間飛び続け、オーストラリアの砂漠にカプセルを投下し、流星となって燃え尽きミッションを完遂したドラマは、技術者だけでなく国民に感動を与え、世界の人々も日本の技術を賞讃しました。

「はやぶさ」の目指した小惑星イトカワは、日本のロケット開発の先駆者、糸川英夫博士の名前を刻んだ惑星です。1955年にわずか23cmの長さと重さ200gの固体燃料を用いたペンシルロケットが、宇宙へのスタートでした。

精密機械の枠と知識を集めた技術国日本の「はやぶさ」は、流星となってその使命を次につなぎましたが、私たちの技術も”下町ロケット”のように皆さまのお役に立つ技術としてのミッションを持続したいと思っています。

 

「産業革命」と”働く”

1747年にフランクリンが電気を発明し、
1764年に紡績機が、
1767年にはワットの蒸気機関が改良され、
1770年頃からイギリスが産業革命期に入り、世界は急速に発展していきます。

この産業革命以降時計の普及によって、時間という概念に変化が生じ
人が提供した時間の価値によってお金を得る「雇用」(JOB)という関係が生まれ、今日に続いています。

もともと私たちは、自分のために 畑を耕し 作物をつくり 糧を得るために「働く」(WORK)ことによって価値を生み出し、お金を得てもきたのです。

「雇用確保」なのか「働く場の創造」なのか迷いますが、
私たちは”ともに働く仲間”であり決して”働き手”ではないと思っています。蒲田というまちも、ともにみんなで”働くまち”だと感じています。

しかし、急速なデジタル社会に入り、時間が無時間性になり、「働く」にも新しい常識(ニューノーマル)が必要になって来ているのかも知れません。

ウロボロスの蛇

先代社長渡辺のふる里であり、支社もある岐阜県飛騨市は、ノーベル賞を受賞された小柴博士の東大宇宙線研究所があり、宇宙素粒子ニュートリノの研究で世界的に有名な「スーパーカミオカンデ」があります。

1秒間に何十兆個も降り注ぐニュートリノの研究では、宇宙が何でできているかを調べています。カミオカンデにたどり着いた素粒子は、16万光年も離れた大マゼラン星雲から来たそうですから驚きです。

こ の宇宙線の研究はギリシア神話の「ウロボロスの蛇」に例えられ、蛇は自分の尾を飲みこんでいる図が「世界の完全性」を表現する古代ギリシァ人の哲学で、宇 宙も起源を知ろうとするためには素粒子を知る必要があるという構図と同じだからです。つまり、遠い宇宙は1027(10の27乗)メートル、一方の電子顕 微鏡で見る素粒子の世界は10-35(10の-35乗)メートル、それが私たちの自然界の幅であり62桁もの距離がある世界なのです。私たちの仕事の背景 には、気の遠くなるよう科学の世界と、限りないロマンを感じます。