旅する技術の結晶「はやぶさ2」

初代「はやぶさ」の開発が7年かかりましたが「はやぶさ2」は3年半で終えて14年12月に打ち上げられ、6年50億キロの旅を経て小惑星リュウグウから帰ってきました。初代が欧州の夜空で燃え尽きたのと違い、リュウグウからの貴重な試料を入れたカプセルを切り離し次のミッションである地球と火星の間を回る小惑星「1998KY26」に向かって旅だち、2031年7月に到着するそうですから驚きです。
「リュウグウ」は、太陽系が誕生したころの姿を保った小惑星でその砂やガスを採取して生命の材料が宇宙から来たのではないかという謎に迫っています。世界が認める探査機「はやぶさ2」は、特殊なチタン合金のボルトやカプセル分離スプリング、落下したカプセル探査のためのレーダー、クレターを作る衝突装置、燃料となるキセインガスの開発など多くの中小企業の優れた技術を取り組んで作られた日本の科学技術の結晶です。はやぶさの旅路は科学の日進月歩のドラマですね。

“誰もやらない実験”への挑戦

当社の飛騨工場のある飛騨市に世界最大の地下ニュートリノ観測装置のある「スーパーカミオカンデ」は2002年にノーベル物理学賞を受賞された小柴昌俊さんが40年以上前に神岡鉱山の地下を活用して、16万光年先から届いた超新星の素粒子ニュートリノ信号をとらえる巨大な水槽を作り“誰もやらない新しい実験”を提案し取り組みました。
昨年11月に94歳で亡くなられましたがニュートリノ天文学という新分野を切り開き、日本の科学界に多くの遺産を残し、2015年には梶田隆章さんが小柴さんに続いてノーベル物理学賞を受賞されました。
現在、観測規模を約5倍にした「スーパーカミオカンデ」の建設が始まっていますので三人目のノーベル賞も期待されています。
科学技術の進歩は、誰もやらないことへの情熱から始まり“日進月歩”の時間で引き継がれていくのですね。当社も次の50年に向かって科学技術の発展に貢献してまいります。

研究開発の “宝探し”

IotやAIの急速な進化とともに科学技術の世界は従来の研究者に加え新しい異分野の人材が求められています。

夏には「扇風機」が身近な家電で、ネーミング通り羽で起こす風が商品でしたが、ダイソン社の羽のない扇風機が登場してイメージが一新しましたし、掃除機もお掃除ロボが登場して“掃除は自分でしない”作業に変身しました。研究開発の世界にデザイナーが参加して技術の将来像を形にしてみせるプロトタイプの製作者が新たな価値創造を生み出しています。また、シオカラトンボの背中にある紫外線を反射させる成分から油に近いワックスのようなものを発見し“日焼け止め”を研究したり、蚊の嗅覚器からセンサーを開発し、人の汗のにおいから感情を読み取りと幅広い研究が進められています。研究開発に異分野の研究者とタッグして“宝探し”をするトレジャーハンティング人材が参加しています。創業50周年、次のアフターコロナに挑戦します。

デジタルシフト社会の技術連携

新型コロナウイルスの拡散で緊急時の対応としてデジタルシフト社会の整備が急がれていますが、AIやIoTを活用した領域でもコンソーシアムの流れが加速しています。
視覚障害のある人が一人で自由に街を歩けるようにしようと“移動支援ロボット”を共同開発しようと研究が進められています。
IBMがAI技術を担当しオムロンが画像認識センサー技術、アルプスアルパインが触覚技術、清水建設が測位ナビゲーション技術、三菱自動車が自動車の技術を5社で提供し、3年間で実用化に向けスタートしました。
従来の杖に換わりキャリーバッグ型のケースに様々なセンサーや知能を搭載し安全に移動できる案内ロボットを目指しています。
今やビジネスの出張や旅に欠かせないキャリーバッグですが同様に目の不自由な人の移動支援ロボとして誕生します。企業の得意技術と連携したコンソーシアム型技術開発がデジタルシフト社会の一翼を担うでしょう。

踏み出す勇気の“科学技術”

私たちの技術開発には「少しの変化」が社会の「大きな変化」につながるという視点があります。IoT(モノのインターネット接続)、AI(人工知能)が科学技術の進展に飛躍的な役割を担っています。高齢化が進むなか、歩けない高齢者や障がい者に車いすが欠かせませんが、一方で500メートルを超えて歩くことが困難な65歳以上のお年寄りが1千万人以上いるとされ、家にこもりがちな方々を外に出し生活の前向きな参加を支援する「生活電動車椅子」の開発が進んでいます。羽田空港でこの車いすの実証実験が行われ、利用者が下りた後、自動運転技術を搭載した車いすが勝手に所定の位置に戻る技術が大変話題になりました。
これまでのバリアフリーは“マイナスからゼロ”に近づける発想でしたが、これからは“ゼロからプラス”に持っていく技術が求められる時代です。
新たな科学技術との共生社会へ“踏み出す勇気”を培ってまいります。

農業に進出するロボットたち

日本の農業人口が昭和25年をピークに減少しています。平成12年389万人でしたが、平成30年では175万人と半減しています。農業は休みのない重労働で後継者も減り人手不足に加えて高齢化が進み、機械化も遅れ農業を取り巻く環境が厳しいのが現実です。こうしたきつい労働を救うために「自動野菜収穫ロボット」が話題です。身をかがめながらの仕事が多い農作業は足腰に負担がかかりますが、全長1mほどのコンパクトなロボットで自走しながら収穫適期の野菜を見極め、成長が一律でない野菜を選別して繊細な動きで摘み取りカゴに入れるという優れもので、AI(人工知能)を搭載したロボットです。
IoT商品はともすると高価になりますが、必要な物に必要な時間だけ借りるリース制度で運用され、農家にとっては有難いサービス制度です。IoT化はこうした社会的に価値のあるシステムで定着していくよう努力してまいる所存です。

高齢社会を支援する生活ロボット

生活支援ロボットのコンテストが2020年9月に茨城県つくば市で開催されます。
一人暮らしの家を想定した住宅などで、例えば半身不随の人が車いすを使わずにロボットを操って健常者と変わらぬ生活が出来るよう技術を競うコンテストです。
コンテストには10の課題が設定してあり、下肢まひと人がロボットを使ってベットからトイレに移動し、用を足してベットに戻ったり、入浴の準備や入浴、身支度、食事や洗濯、掃除、荷物の受け取りや買物、バスの乗り降りなどの課題をロボットを使って操作するというコンテストです。高齢社会を迎え障がい者や高齢者にとっても嬉しい挑戦です。
ドラえもんのタケコプターがドローンの登場で空想から実現したように、生活支援ロボットの事業化に多くの民間企業が最新の科学技術で挑戦して欲しいものです。
産業ロボットに取り組む我が社にとっても新時代の課題であることも間違いありません。

「未来技術遺産」の日進月歩

今年も12回目の「未来技術遺産」で26件の重要科学技術史資料が登録されました。
科学技術の歴史で大きな意義のある納得の商品が選ばれています。1959年に登場した一眼レフカメラ「ニコンF」は、プロ用機として15年以上にわたり君臨した国産カメラの評価を世界に高めました。1983年に発売されたカシオの腕時計「Gショック」は、電子部品への衝撃を和らげる特殊な構造で耐衝撃性を高めアウトドアやスポーツでの使用を身近にし、洗練されたデザイン性も高く、若者に人気の商品として広く普及しました。その他にもソニーが世界で初めて開発したCDプレーヤー「D-50」も登録され、「CDウオークマン」の原型となった商品で、ジョブズがiphone開発のヒントとなった技術です。
科学技術の世界は「日進月歩」ですが、わが社も創業50周年を迎えます。ミニ社史ですが“わが社の技術遺産”もまとめて、未来へ挑戦してまいります。

生命の起源を探る「ウロボロスの蛇」

我が社の飛騨工場のある飛騨市には東大宇宙線研究所があり、16万光年も離れた星雲から降り注ぐニュートリノの研究で宇宙が何でできているかを調べています。JAXAの「はやぶさ2」は地球から約3億キロ離れた小惑星「リュウグウ」から太古の水成分を発見し、生命に欠かせない水の起源の解明により小惑星が地球に衝突し、水や有機物がもたらされたという研究を進めています。
一方、地球の深海では生命の誕生は熱水噴出孔で生まれた可能性があるとして、熱水噴出孔が作るエネルギー源の発電を究明し、生体が生まれた道筋が見えてきたと発表しています。約40億年前に地球で生命はどのように誕生したのか、宇宙と地球の研究で決着がつくかもしれません。この二つの研究は古代エジプトのツタンカーメン王の墓に描かれた蛇が口で自分の尾を飲み込む「ウロボロスの蛇」の無限、永遠、不滅の象徴の理論を思い出させてくれます。生命誕生のロマンですね。

社会のインフラになるAI(人工知能)

高齢化が進み20年後には100歳以上の人口は30万人になり、人口は2058年には1億人を下回り2100年には7500万人になると推計されています。加えて労働人口の減少も大きな社会問題となり、その対応が急がれています。
人手不足は様々な職業、職場に影響を与えていますが、AIの活用が急速に進んでいます。
自動運転の電車や車の普及、工場の機械が自ら通信し必要な部品を手配したり、生産計画や需要を予測したりする「スマートファクトリー」が誕生します。ホテルやビルメンテナンスではAIを搭載したお掃除ロボが活躍しています。行政の窓口では通信アプリ・LINEを使用して市民の問い合わせの回答にAIを活用した、対話型案内サービスの実験が始まっています。
高齢社会の課題解決をする「お片付けAIロボ」が誕生したり、福祉や介護の世界にも人工知能が活躍し社会インフラの一翼を担うソーシャルシステムが実現しています。